FC2ブログ

スポンサーサイト

--.--.--  *Edit 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



*Edit TB(-) | CO(-) 

チ イ サ ナ セ カ イ

2009.04.15  *Edit 

夜半から続いていた豪雨は朝方には大分落ちつき、時折滴る雨の玉は緩やかにガ ラスを伝って古い窓枠に染み込んでいく。
風は止み、それでもまだしっとりと重みのある大気は、
再び眠りにつくまでの一時のあの心地よさにはほど遠い不快感を漂わせていた。
水分を多目に含んだ窓枠から染みでる地図の模様。
その痕跡を小さい指でなぞりながら しきりに外の様子を気にしている白い形を、
まだ夜も明けきっていないモノクロの部屋の中で捉えた。
「ニア?」
メロは枕に顔を横たえたままの姿勢でその白い背中に声をかけてみる。
「・・・・・」
自分を呼ぶ声のすぐ目の前の金色を確認して、すぐにまたガラス越しの宙に視線を戻した。
ニアは自分のベッドではなく、窓側に備わっているメロのベッドに上がり込んでいるのだ。
ニアの裸足の足の裏が並んで上を向いているのがなんとも可愛くて、
メロは10粒の丸い指の腹を自らの足でイタズラっぽく小突いてみた。
ニアは相変わらす無反応を装う。
「眠れないのか?」
何も応じないニアの態度にメロは落ち着かない。
ニアからの反応が無い事だけで、メロにこの上無い程のやっかいな感情を沸き上がらせる。
それはあまりにもたやすい行為だ。
ニアにだけは片時も自分の存在を無下にして欲しくない、自分自身を殴りたくなる様ななんとも情けない不安が渦巻く。
そしてどうしてもすぐにその所在ないふわふわした視線の片隅でいいから自分を捉えて欲しいと焦る。
ニアが愛おしすぎて、どうしようもない・・・。
「僕は甘いな・・・」死んでも言えない台詞を心の中で繰り返す。
根気よく待った甲斐があってようやくニアが口を開いた。
「メロも眠れないんですか?」
「僕は眠いんだけどニアがそこでそうやってるから気になって眠れない」
メロは少しもそんなことを思ってはいなかったが、ニアの自分に対する反応が見たくて少し意地悪く言ってみた。
ニアは窓枠に添えている両手を離すことなく再び緩やかにメロの方を見て、すぐさまベッドから飛び降りて部屋を抜け出した。
「ニアッ」
訳がわからず、しかし放っておける筈もなく。
「・・・ッチ!」
舌打ちをしながら暫しの間を置き、そしてニアの歩調を考慮しながらその後を追うように部屋を出る。
計算が狂ったか・・?
ニアはすでに教会の方へ続く長い林の道をずんずんと進んでいた。
少し先のその小さな背中を目線に捉え、それでもメロの早足ですぐに追い付けるほどのスピードのニアの腕を難なく掴む。
雨が止んでいるとはいえ、ぬかるんだ道は慎重に移動しないことにはすぐに足元を掬われる。
案の定ニアの下半身は既に泥だらけではないか。
外に出た途端に滑ったらしい事が伺える。
「泥まみれじゃないかよ・・・」
呆れた様子のメロに更に追い討ちをかけるような事実。
靴を履いていないではないか。
「ニアー もーお前なぁ・・・」
小さく溜息を付くメロの隣で、ニアはゆるゆると伸ばした片方の手をメロの手に繋ぐ。
「ぎゃっ!!」
突然握られたその手のひらには、まだ乾ききっていないニュルっとした泥の塊がこびりついている。
メロはその不快感に小さく悲鳴を上げた。
転んだ拍子に両手をついたのだろう、少しばかり拭った痕が白いシャツの脇を見事に汚している。
メロは一度その手を離し、自分のシャツの裾で拭いてやる。
そしてもう一度繋いだその手を、何も言わずに握り返してくるニアの体温を受け止めながら
まだ薄暗い霧のベールの中を黙って並んで歩いた。
「ニア どこへ行くんだよ」
教会の脇の樫の木を抜け、奥へと進んだ場所にある野原、その一角の木々の生い茂った場所、
ニアは何本もの長く細い枝を宙に渡したその一本の木の上を見上げる。
そしてすぐに落ち着きなく辺りをキョロキョロと見渡しては早足でその草むらを探るように歩き回る。
「ニア?」
またもやメロの問いかけに耳を傾けるでもなくひたすら草むらをかき分けて何かを探している。
それでも繋いだままの手を離さないニアが愛おしくて、
首輪のままあちこち引っ張られる飼い犬の様を想像しながらニアの歩くその後をひたすらついていく。
そうしているうちふっと立ち止まったかと思いきや「メロッ」と声を上げて目線の先に走り寄る。
今まで繋いでいた手を初めてほどかれた。
瞬時の出来事にメロは置き去りにされた子供のように、先程まで熱を持っていた少し土の痕の残っているその手のひらを暫し眺める。
ニアはしゃがみ込み、何かを拾い上げる仕草をした。
拾ったソレを抱えて再び目線は落ち着きなく辺りを見回している。
少しも目線を合わそうとしないニアに少し苛立ちを感じ、メロはあえてその場から動かずにいた。
「メロ・・・」
再び呼ぶその声は確実に自分を必要としているのだと思うとやはり放ってはおけない。
今度こそ漆黒の大きな瞳は湿度をたっぷりと含んだ朝靄の中で一層潤ませながらメロを見ているからだ。
自分を呼ぶニアの方へ行って擁護してやりたいと思ってしまう感情・・・。
つくづく「僕はやっぱり甘いな」と再び胸の中で叫ぶ。
メロはゆっくりとニアの元へ歩み寄る
「雛がいません」
そう呟くその泥だらけの両手に抱えられていたのは、雨で叩き落とされた小さな鳥の巣の残骸だ。
雛がいない…? ああ……そういうことか……


3日前の出来事をメロはぼんやりと思い巡らす。





降り続く雨にもてあまし気味の毎日、流石にやることもなくなったメロは、
普段ならいる筈もないこの遊戯室で、華奢な小さな指でパチパチと埋まっていくニアのパズルの台紙を所在なげに見続けている。
そんなメロに珍しくニアが提案してきた。
「雨が上がったら散歩にいきませんか?」
「・・・はぁ?散歩?」
「はい 散歩に…」そう言ってすぐに言葉を止めた。
「何?ニア、熱でもあるのか!」
からかうようにニアを見ると、先程の誘いを恥ずかしがっている様子で、
既に完成させてしまったパズルを前に、持つピースのないもてあまし気味のその指でしきりに髪を弄っている。
窓の向こう見上げると、雨の玉が心地良いリズムで窓枠のへこんだ部分に溜まった水を弾いている。
もうすぐ止むだろう。
メロは髪を弄ってるニアのその手を取る。
そんな態度に少しの躊躇をみせるニアの瞳がメロを捉える
「散歩 行こう」
ニアの返事を待たずに軽く引くメロのその手に促されるようにゆるゆるとニアが立ち上がる。

「ちょうど雨上がった」
先に外に出たメロは玄関先に座り込んでまだもたもたと靴を履いているニアを振り向き言った。
「早く ニア早く!」
久しぶりに外へ出るメロはやはり嬉しそうに生き生きと声を弾ませている。
そんなメロを見ながらも久しぶりに足を通す靴に違和感を覚えながら、靴の中の靴下の収まり具合をしきりに気にしている
程なくしてドタドタと階段を駆け降りてくる何人かの足音が聞こえてきた。
「メロっ、サッカーやらないのか?こないだのリベンジだぜ」
「ばーっっぁかっ やるかよっ グラウンドぬかってるぜ。泥試合か?ロジャーに叱られんの覚悟しとけよ!!」
ロジャーから雨上がりのグラウンドに入ることを極力禁じられている。
何故なら乾いた後に残る靴痕が今後の使用に差し支えるかららしい。
だが遊び盛りの子供達には、服が汚れようが、グラウンドがボコボコになろうが、そんなことはどうでもいいことだ。
泥の中でのサッカー、実のところメロはそれほど拒否したいわけでもなかったが、今はニアと散歩に行くという目的がある。
友達はさっそくグラウンド向けて大きくボールを蹴り、すでにその方向へ散らばっていった
「ニア 早くしろよ~」
ボール蹴りに勤しむ友達の走り回る様を眺めながらニアに声かける。
ようやく靴を履き終えて玄関先まで出て来たニアの手を少し強引に掴み外へ引っ張りだした。
何のあてもなく散歩に誘ったのかと思っていたメロだが、ニアがひたすらに歩み寄るその方向は教会。
めずらしくサクサクと歩く目の前の白い背中に声をかける。
「おい 散歩ってもっとゆっくり歩いたりするんじゃないのか?」
そんなメロの言葉を背中越しに聞いているのか、一瞬立ち止まる様な仕草をみせたが、すぐにまた歩き出した。
心持ちスピードが緩まったと感じたのは気のせいか・・・、メロはニアとの距離を一定に保って後を歩いていく。

教会の裏のだだっ広い野原、めったに足を踏み入れる事のないこの場所を、何故外に出る事もあまりないニアが・・・
興味を引く様な物でもあるのだろうか? そんなことを思いながら木々の生い茂った一角を気にしているニアを見る。
「何か気になる物でもあるのか?」
「鳥の巣です・・・」
「鳥?」
「はい、先週の礼拝の後、シスターとロジャーが木箱を括り付けていたので何かと聞いてみた所、
鳥の餌を入れておく為の箱を備え付けていると言ってました。」
そういってその見上げた木から少し離れた場所に移動して、再び上の方を見上げた。
適度な高さの木の幹、たしかに木箱が括り付けられてあった。
「ふ~ん」
あまり興味の無い様子でニアの話を聞いている。
「雛が生まれたそうです。餌はそのためだそうですが・・・」
「そんなことしなくたって親鳥が虫を採ってくるさ」
そう言ってメロは巣のあるだろう辺りを見上げて言った。
「そうですね、私もそう思います。でもシスター曰く、私達が食事で食べ残したパンやトウモロコシが勿体ないそうです」
たしかにシスターの言う事は正論だ、メロはそれ以上は何も言わずにただひたすらその上を見上げる。
「なあ どこにあるの?巣」
「ほら あそこです。隣の枝と交差して見辛いですが、木々の隙間から僅かに見えますよ」
そう言ってニアはメロの手を取り、少しだけ自分の居る位置に引き寄せる
「此処からの方が見えると思います」
再び見上げると、枯れ草の様な小さな塊が木と木の僅かな隙間から覗かせているのがわかった。
「もうすぐ飛べる筈だと言ってました」
メロはすでに巣を見る事を止めて、満足そうに見上げているニアの透き通った横顔を眺めながら
繋がれたままの手をほんの少し握り返した。



そんな事を思い出しながら、忙しなくキョロキョロ辺りを見回しているニアを見下ろした。
必死になっているニアが酷く哀れになり、しゃがみ込んではその小さな薄い肩に腕を回して軽く撫でてあげる。
「大丈夫さ、きっと飛び立ったさ、餌もたらふく食べただろうから・・・」
慰めというには程遠いセリフだが、というよりこの場で掛けるべく言葉は、ニアを納得させる事ではないということは十分わかっている。
「・・・そうですね メロ」
予想もしなかったニアの言葉に逆にメロが反応した。
「・・・うん 大丈夫さ」
大丈夫としか言えないメロの胸中を察したのか、ニアも「そうですね」とだけ返して来る。
「そうですね」

そんなメロの視線は、生い茂っている草むらの中で、藁とも土ともつかない様な物で汚れている、姿形も覚束ない小さな塊を捉えていた。
雛が何羽いたのか定かではないが、たしかにそれはその中の一羽だと確信する。
ニアは気づいてはいないだろう。
メロの、自分を撫で上げる手のひらの感触に安堵を感じているのか、ニアは暫くその場を離れようとしなかった。


「ほら、ニア、乗れよ」
全身泥だらけといっても過言ではない、おまけに裸足で震えている姿に、ついに同情を隠しきれないメロはニアの前に背中を差し出し言った。
ニアはゆるゆると細い腕をメロの首に回して、ピタリと身体を密着させて背中に乗り上げる。
「はぁ~・・・」
濡れた全身が奪った体温は、メロの背中で少しばかり補ってくれたのか、ホッと小さく溜息を吐いた。
ニアが横たえているメロの肩口に漂うニアの吐く息がくすぐったくて、それを避けるように小首をかしげる。
メロの歩く歩調は心地よく、ニアに眠りを呼び起こす。
何度も寝そうになるニアにメロは声を荒げて眠りを静止する。
「寝るなよニアっ!! シャワー浴びるんだからなっ おいっ!! 聞いてんのかっ?」
「ん・・・  スゥ………」
「ああもぉ しょうがないなぁ………」

メロは何度も立ち止まり、滑り落ちそうになる小さな身体を持ち上げるように体勢を整えた。
メロの首に回したニアの両腕が、力が抜けたように少しずつ下にさがってくる。
それでも そのぼろぼろになった小さな巣を離す事は無く………





小さな世界がひとつ壊れた

ニアの中にある小さな世界は大丈夫だろうか

僕達の今いる、この小さな場所は、誰かが守ってくれるのだろうか

外の世界をまだ知らない

いつか此処を巣立つその日まで、僕達はここで生きていく

その日まで この小さな世界で生きていくんだ




_______________________________ fin







*Edit TB(0) | CO(0) Tag List  [ * ] 

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

~ Trackback ~

トラックバックURL
http://wakuseinonearmello.blog34.fc2.com/tb.php/3-ff5e052f

 ◆Home  ◆Novel List  ◆All  ◆通常ブログ画面  ▲PageTop 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。