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第十一章

2009.05.13  *Edit 

確かに聞こえたあの音は今日ここに戻ってくるであろう筈の手帳が落ちた音だ 絶対そうだそうに決まっている
ミハエルは走った。ネイトを助けなければ。
いやどんな手を使ってでも助け出さなければいけない。
二人の関係が見つかって裁かれるのはネイトの方だ
自分も同罪である筈なのにネイトだけが罰をあたえられるなどそんな事はあってはならない

牢へ続く階段をランプを消して静かに下りて行く
昼でも暗い牢は まだ日も昇っていない今の時間ランプの明かりが無ければ暗闇同然である
階段を下りきった先には案の定見張りの兵が一人石段に腰掛けうつらうつらと居眠りをしている
明かりはその兵の頭上に一つだけ点されてあるランプのみのためその先はよく見えない
その側を静かに横切り鉄格子の牢の前に歩み寄ると白く小さい人影が薄らとした明かり中に浮かび上がった
片足を立てその膝に顔を横たえて目を閉じている

「ニア」

微かに聞こえる声にゆっくりと目を開きその声の先に視線を這わす
ミハエルの姿に驚き急いで側に近寄る
「メロ 何故ここに……」
「ニア もう大丈夫だ 今出してやる」
そう言って見張りの兵の腰にぶら下がっている鍵束に目をやりそちらの方に歩いて行こうとするのをネイトは止める
「メロ やめてください 私を逃がしたとなるとあなたまでどんな目に遭うか分かりません
私はここで罰を受けます あなたのいない生活など私には何の意味もありません ここで命を断たれたとしても悔いはありませんよ」
「ニア そんな事言ってる場合じゃないぞ 確認する事があるだろう」
「メロ…… もういいのですよ 全ては夢物語です」
半分諦めかけた様子で静かに言葉を放つ

「音がした!」

「…え?」
「音がしたんだ 中で コトリと確かに小さい音が聞こえた」
 意気揚々と瞳を輝かせながらのミハエルの言葉に目を疑って暫しその顔を見つめる
「きっと手帳の落ちる音だ 僕には聞こえたぞニア 一緒に確かめに行こう」
「ま……さか………」
全身を小さく奮わせて鉄格子を強く握っている

と その時二人の前に居眠りをしていた筈の見張りの兵が立ちはだかっていた
「王子 どうぞお部屋にお戻り下さい」
そう言いながらいつでも剣が抜けるようにその片手を柄の上にかざしている
「お前 僕に剣をむけるつもりか?」
ミハエルの言葉にたじろぎながらも「申し訳ございません 王様からのご命令でございます」と忠誠心をみせる
「やはり父上であったな まあ今更驚く事ではないが」
と いきなり見張りに飛びかかり上体を後ろへ倒し馬乗りに乗り上げた
しかしガタイの大きな兵の前ではミハエルの力は到底かなう筈もなくすぐにその身体を払いのけられその手は剣を抜いた
「メロッ!」 叫ぶも牢の中ではどうする事も出来ない
そしてすぐに ガンっ!と 大きな鈍い音が聞こえ鎧を纏っていない兵は頭を抱えてその場に倒れた
驚いて見上げるとワイミーが銀の大きなトレイを持って立っているではないか

「ワイミー!」「ワイミーどの…」

二人同時に声を揃えて発する中 平然とした面持ちで兵の頭にあたったトレイのその部分を丁寧に拭き取っている
「まったくいままでこの大きくて重いだけで何の使い道の無かったものがこんな所で使われるとは……」
そう皮肉を言うワイミーの優しい眼差しはいつも通りだ
「どうしてここへ……」
「ほほ 偶然と言う事にして下さい このジャマな盆を倉庫にしまいに地下へ行く途中あなた様をお見かけしただけですよ」
「………で 僕達をどうするつもりだワイミー」
ミハエルはワイミーの出方を待つかのように聞き返す
「い~え どうもいたしません これをしまいに倉庫へまいります あ そうそう この牢の鍵はこの鍵束にはございません
わたくしの記憶だとたしか柱のランプ台の上に置かれてある筈……ああこれは独り言です」 そう言ってランプ台の方を見る
「さあ ぐずぐずしてると交代の兵がやってきます もし馬が必要でしたらわたくしの名馬ロジャーが待っております
よろしければどうぞお使いください 少々年は取っておりますが忍耐だけはどの馬にも負けませんよ
わたくしの国までの道のり軽く五日はかかりますがロジャーが知り尽くしておりますゆえ あ これも独り言でございます」
そう言いながらワイミーはこの場を去った

ミハエルは急いで鍵を開けてネイトの手を握って牢から連れ出し部屋への通路を急ぐ


ネイトは机の引き出しからクローゼットの鍵を取り出し そしておそるおそるその扉を開ける
しんと静まり返った部屋の中 
クローゼットを前に二人で声を殺して笑う姿をこの一連の事態を知らない者が見たらなんとも不気味であろう

そしてその中には確かにネイトの大事なあの手帳が収まっているではないか

「ニア 成功か?」
「はい おおむね成功です」

徐に立ち上がり天球儀を持ってきて中に設置する
「ニア 何をするつもりだ?」 クローゼットに足をかけて入ろうとするニアの腕を掴みその動作を止める
「まさか自分で試す気なのか?」
「はいその通りです 私はもはや重罪人です 捕まったら殺される 
どうせ殺されるとわかっているならこのチャンスを逃す手はありませんよメロ」
「一緒に逃げればいいじゃないか 僕も同罪だ 殺されるなら僕も…」
「いいえ それはなりません 二人で殺されてしまえば二度と会えないかもしれません」
「どこで会えるというんだ ニア 僕も一緒に」
「いいえ 命の保証はどこにもありません 失敗に終われば魂までもがこの全宇宙から浄化して無になってしまいます
だからあなたは生きて下さい その魂を絶やす事無く確実に生まれ変わっていってください いつかどこかで そうですね…
たとえば500年後の世界で…… 無事に私が辿り着けたならばあなたがどんな姿に生まれ変わろうと どんな場所に居ようと……
私は必ずあなたを見つけます いえ必ず見つける自信があります  だってあなたを愛してますから」
キラキラしたニアの眼差しを真直ぐに受けとめる
「ニア でも僕はいやだ……お前がここからいなくなってしまうなんて……」
ネイトの身体を抱きしめる力は弱々しく それでもしっかりと確実にその体温を刻み込む

「メロ 日が昇ってきました 私は行きますね」 ミハエルはその腕からネイトを解く
解かれたネイトはすぐさまミハエルの手を取り そして愛しい程にその甲に頬をすり寄せ口づけをする
「ニア……」

レバーを引き動力を稼動させる
整然と並んだ色とりどりのボタンが光りだす
行く先はこの前合わせたままになっている

「本当に500年先に行くつもりなのか?」
「おもしろいじゃないですか? 今と全く違う世界の筈です どうせ行くのならこのくらい冒険しないと勿体ないですよ」
「お前は僕の生涯の友達で宝だ この先もそのもっと先も生まれ変わったとしてもこの憶いは揺るぎない」
カーテンを通して少しずつ部屋が明るくなってくる

「僕も必ずお前を捜せる自信がある ニア 愛してる」
ミハエルはネイトに今世紀最後の口づけをする

「メロ 愛してます 未来で待っていますよ」

そう言ってネイトはスイッチを押す

その瞬間 目映いばかりの光が部屋全体に反射してこの小さい空間は真っ白になる


目を閉じても瞼を通してその明るさが確認出来る程の光は徐々に薄くなりやがてそれは消える



ミハエルはゆっくりと目を開く
クローゼットの中を覗くとそこにはもうネイトの姿はない
色とりどりのボタンも今や全ての光を消し去り 白い煙を立ちこめて数字の回転ボタンが壊れている
その中で天球儀だけがカラカラと乾いた音を立てて回っている
「エネルギーとやらが強すぎて壊れたのか?……」

どこかで同じような光景をみた……
あれはたしか森の中……ネイトが光の中に溶けて消えてしまいそうな錯覚を感じた……
「あれは……こういう事だったのか?僕の予兆だったのか…………」
暫く呆然とその場に立ち尽くすミハエルの背後からワイミーの声がする
「王子 今の光は一体……」

ミハエルはクローゼットの中の天球儀を取り出し ネイトが使っていた革のバッグを肩から下げる
ネイトは大事な物はすぐに持ち出せるように常にバッグに入れていた
この先も続く未来 何百年先の未来 魂の根源がネイトへ辿り着く足掛かりになるようにとミハエルは願う

「ワイミー 馬を借りる いや……もう返せないと思う」
「王子!」
急ぐミハエルをワイミーが呼び止める

「ロジャーを東塔の裏の雑木林に繋いであります 螺旋階段を使っていたら時間がかかります 
わたくしの部屋の裏庭の門を開けておきました 裏はすぐに雑木林です 
ロジャーは森は慣れております そこから抜けて行かれた方が安全かと思います」
ワイミーを振り返り眼鏡越しに少し潤んだその優しい眼差しを見る
「ワイミー なんと礼を言っていいか……リンダを頼みます」
「王子どうかお元気で もうお目にかかれる事は一生無いのでございますね」

「いつかの未来で会えるかもしれないさ その時はまた世話になる」
そう言って笑い 急いで階段を下りて行く
ミハエルの後ろ姿を見つめながらワイミーが呟く

「未来ですか……ほほ 意気なことをおっしゃいますな 楽しみにしておりますぞ」

ワイミーに言われた通りに裏庭に出て雑木林の中に足を踏み入れるとすぐの場所にロジャーが繋がれていた
「これからは長い付き合いになるな ロジャー」
そう言ってたて髪を撫でてやり 天球儀が落ちないようにしっかりと鞍に括りつける
急いでに馬に飛び乗り森へ急ぐ


     気持ちが逸る
     生き急ぎたい程に馬を馳せる


     行き着く所は同じだ

     ニア 先に未来で待っていてくれ




                そして    そして必ず僕を見つけてくれ






最終章へ続く  


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