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第十章

2009.05.10  *Edit 

その日の天気が霧であろうと大雨であろうと二人は明けの明星を眺めるという口実を覆す事無く毎日のように抱き合った。
ミハエルのキスはネイトに甘い吐息をもたらす。
時には塔の天辺で星を眺めながら抱き合った。
ようやく金星を眺めるという目的を果たすも その後の甘い吐息は途切れる事はなかった。
なんともロマンティックなシチュエーションに二人の熱は覚めやらない。
「ニア 僕と一緒に何処かに逃げないかい?」
冗談とも取れるミハエルの科白に「はい」と返事をしてしまいそうなネイトであったが、
それは決して叶う事の無い現実だと納得している。
「何処に逃げるというのですか?」
笑って聞き返すその言葉の本質をミハエルには十分すぎる程に分かっている。
「500年後の未来へ行くというのはどうだろう」
「それは仮説にすぎません 世界は広しと云えども行ける場所は限られていますよ。 
あなた自身に支障をきたす様な事は絶対してはなりません」
「たいむましんが成功する確率と僕達が逃げられる確率とではどちらが高いと思う?」
「無量大数分の1もしくはもう少しあまく見積もって不可思議分の1ですか…… いずれにせよどちらもあり得ません。 
……が私の手帳が戻って来た矢先にはこの単位はもう少し柔軟なところに落ち着くと思いますよ」
理屈っぽく語るネイトはミハエルにとってこの上なく魅力的に映る。
「ニア お前は本当に今の時代に生まれて来たのか?僕にはお前が不思議に思えてならないよ」
「お誉めにあずかり光栄ですメロ。私にとってはあなたの存在こそが無量大数程に魅力的です」
二人はまたすぐに長いキスを交わした。



長いあいだ雨が降り続いて外へ出ることも出来ない毎日に不機嫌この上ない様子のミハエル。
法の担当であるミカミという教授からの課題を強いられているミハエルにお茶の声が掛かり、しばしその窮屈を解かれた。
「お砂糖は一つでよろしいですね」
3時にはいかなる時でも必ずお茶を用意してくれるミハエルのお目付役のワイミーは、
父のローライトがまだ幼少の頃から城に使えており、その父の世話係りをしていた。
父亡き後もそのままミハエルのお世話の役目を引き継いでいるのだ。
「王子 聞いてらっしゃいますか?」
「あっ うん… いらない」
頬杖をつき、気乗りのしないミハエルの胸中を察しているかのようにワイミーは話しかけた。
「王子 あ~わたくしが思うにあなた様の最近の行動には少々目を見張るものがあります。
なにとぞお気をつけ下さらない事には何時何処で誰に見られているか分かりません。 
考えただけでもこの老人の神経はすり減って倒れそうですぞ。たまったものではございません。ご忠告いたします。よろしいですか?」
ワイミーの言葉に思わず視線を合わすが、軽くうなだれる仕草のミハエルが言わんとしている事は十分ワイミーには伝わった。
「知っていたのか?」
「ネイトどのにも十分お気をつけいただくように申しておきませんと」
「ニアは関係ないだろ?いちいち目くじらたてるな」 
そう言ってチョコレートケーキを一口で頬張った。

「あなた様が心配なのですよ。お父上を亡くされてさぞ悲しい幼少時代を過ごされた事はわたくしが一番よく知っております。 
ネイトどのもお小さいながらもあなた様には本当に良くして下さっておりました。 
お二人にはにどんな形であれお幸せになっていただきたいのです。 
お二人のお気持ちは痛い程伝わっております。しかしこればかりはわたくしにはどうする事もできません。残念ですが…」
「………わかってるさ。ワイミー気にするな」
そう言って口元に付いているチョコレートを舌で絡め取った。



冬も間近な11月初旬、一ヶ月後に迫ったミハエルの成婚式の準備にそろそろ城の使いの者達が慌ただしい動きをしている。
「王子 私はリンダ様の教育係を申し付けられましたゆえ、ご成婚後にもここに留まるようとのご配慮をいただきました」
「妹の?」
「はい。しかしお断りしようと思っております。国に帰って父と兄と同じくその土地で教職をとりながら片手間に発明等をして暮らして行けたらと思っております。ご期待に添えずに申し訳ございません」
「ニアが謝ることはない。ニアはニアの考えで、僕は僕の考えで生きて行くのが一番いい」
そろそろ冬を伝える木漏れ日は弱々しいながらも白い光を床に落とし、ミハエルはその光の揺れる先を所在なげに見つめていた。
「メロ………」
授業中は否応なしに王子と呼ぶと宣言した筈なのに、名前を呼ばれて少し嬉しそうにネイトの方を振り向いた。
「どうした?」
「あと三日ですよ。私の手帳が戻ってくる筈の日まで」
「本当に戻って来たら二人で逃げ仰せる確率が少し縮まるという事だな」 
期待を込めた瞳でネイトを見やる。
「あの科白は忘れて下さい。あり得ない事です」 
笑い飛ばすようにミハエルの言葉を制御するニアを見て、ミハエルもまた少しだけ微笑んだ。


そんな中、リンダのお目付役の女がダヴィンチの人体図に関する資料を是非貸してくれないかとネイトを訪ねて部屋へやって来た。
「はい。私の部屋にありますが今でないといけませんか?」
目付の女は、リンダがどうしても拝見したいと言っているので出来れば急ぎがいいとネイトに申し出る。
「お前、そういう時はこちらの都合を察しろと言うべきだろ。まったくリンダの奴」
「申し訳ございません。王子様」
ミハエルに謝る目付を特に気にする様子でもなく、ニアは今すぐ資料を持ってくると承諾した。
「ニア、そんな勝手は断るに限る。リンダのタメにもならない」
「いえ、いいのですよ。それと多少早いですが王子、今日の授業は終わりにいたしましょう。そろそろお茶の時間になりますのでどうぞごゆっくりなさって下さい」
「……… ん…」
「? どうなさいました?」
なにが言いたげのミハエルを気遣い、しばし言葉を待った。
「あ…たまには…その…一緒にお茶でもどうだい?ワイミーも会いたがっていた」
このまま別れるのは寂しいと思いミハエルは遠慮がちにネイトをお茶に誘ってみる。
「ありがとうございます。しかし戻ってくるまで時間がかかりますので次回にまたお誘いいただけると嬉しいです」 
丁寧に断るネイトミハエルに申し訳ないと思ったのか、わざわざ届けてもらうのは手間をかけるという事でネイトの部屋まで使いの者が一緒に行く事になった。
「3時までにはまだ少し時間があるから大丈夫さ。行っておいで。茶室で待っている」
「ありがとうございます。時間には必ずお伺いさせていただきます。」
恭しくお辞儀をしながらネイトと使いの物はその部屋を後にした。


ネイトは一緒に来た使いの者に、ドアの前で少し待っているようにと階段を降りきったところで告げた。
それでもネイトは部屋へ入って行ったすぐ後、使いは見た事もない程の書物に囲まれたネイトの部屋を物珍しそうに少し身を乗り出して覗いてみる。
珍しいものをみている様子のその目線の先、… と クローゼットの扉の前 それを発見した。

工芸的な美しい刺繍で施された上等な絹のガウンはシワにならないように丁寧に吊り下げられている。
ネイトの部屋にはいささかそぐわないそれは確かにミハエルのものであった。






次の日 授業の時間になっても現れないネイトに、少しばかり苛立つミハエルであったが、居ても経っても居られなくなりどうしたものかと部屋をあとにした。
勉強がないのはミハエルにとっては嬉しい事だが同時にネイトに会えないのは非常につまらないという矛盾した気持ちに可笑しくなり、コリドーから見える森を眺めながらあの時の楽しかった一瞬を思い出していた。

「ニアを見かけなかったか?」

「はい わたくしも用がありましたので捜しておりましたが 本日は使いの用事を頼まれているらしく留守にしていると」
「使い?ニアに?何の使いだ?」
「さあ… わたくしも詳しくは聞いておりませんが……どうしました?王子」
「いや、いいんだ」
ワイミーに訪ねてみたが何も知らない様子だ。

次の日になってもネイトは現れない。
ミハエルは母に訪ねるため、そこにいるであろう弟の部屋に向かった。

「母上 ネイトの姿が昨日から見えないのですがなにかご存知ですか?
ワイミーの話では使いを頼んだという事ですが今日になっても戻って来ていません」
「ああミハエル、その事ですがネイトは自分から役目を降りたいと昨日急にここを出ていきました」
「出て行った?」
「なにか余程の事があったのでしょうね、荷物は後で届けるよう下の者に言いつかっておきました。 
今は忙しいのであなたの成婚式が終わってからにいたしましょう。ネイトにもそのように告げておきました。 
それとお父上と相談しましてあなたには今後僅かの日ですが、ミカミに教育係を担当してもらう事にいたしましたので。」
「辞めた?ふ… そんな筈はありません。なにかの間違いでしょう。ネイトにはまだしなければならない事が残っている筈ですから」
「何をですか?ミハエル」
「………」
「ミハエル 答えなさい」
「いえ、何もありません」
何も言わずに急いで部屋をあとにした。

ニアが出て行った? まさか、辞める筈などないのだ。 
まだ結果をみていない。 明日がちょうどその日ではないか。忘れるはずがない。 
結果をみないで此処を出て行く等ありえない事だ。
 
自分の前から突然姿を消す筈は絶対にないのだとミハエルは確信している。


馬小屋に行くとウエディがいた。
もともと城がネイトの為にあつらえた馬であるため、此処に残っていても何の不思議はない。
ミハエルの姿を見て上体を大きく奮わせて喜んでいる。
そばに寄ってその顔を撫でてやり、ひとり言のように呟く。
「ウエディ お前はニアが何処に居るか知らないか?」


ミハエルは何かを確かめるように、いつもと同じく日付の代わった時間にこっそりネイトの部屋を訪ねてみる。
が、やはり部屋に明かりはなく鍵はかかっていない。
手持ちのランプで部屋をぐるりと確認したが荷物はそのまま残っている以外特に何も変わった様子はない。
天球儀もそのまま机の上に置かれている。
クローゼットの中は鍵が掛かって中を覗かれないようにしているらしい。
手帳は何時に戻ってくるように設定したのかは知らないが、鍵が掛かっている以上は中を確認する訳にはいかない… 
というよりも、そんな非現実的な事が実際に起こる筈はないのだと心の奥底で思っているのも正直な気持ちだった。

出かける時には必ず持ち歩いているはずの革のバッグも筆記用具もいつもの場所にきちんと並べられてある。
どう考えてもおかしい。 ネイトの事だ。大事なバッグまで置いて行く筈が無い……
整理された部屋の中、そんな中でいつもはたたんでおいてあるブランケットが床に落ちたままになっている。
それを拾い上げベッドの上に戻した時、ふとクローゼットに目線を移す。
ネイトがちゃんと掛けておいてくれている筈の自分のガウンが下がっていない事に気付いた。

一瞬で全てを悟った。

誰かに見られた…?

ニアは囚われ、そしてこの城の中にいる!

その時 コトリ… とわずかに耳に届く程の小さな音がクローゼットの中から聞こえた。







続く…






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