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第六章

2009.05.02  *Edit 


十日目の夜 ネイトは城へ戻る道のりを馬に揺られていた
ネイトの国まで馬を走らせて往復八日はかかるため殆ど家にいる時間はない
母のハルと兄のステファン そして父のアンソニーとの会話もそこそこに また再びこの城へ ミハエルの元へ戻って来た
空は紺碧に澄みきっており 満天の星が一面を覆う
神経を研ぎすまされる静けさの中 天を仰いでその大気を全身に感じる
十日間会わずに過ごしたネイトだが彼の心は何も変わらない
離れていた事が以前よりも一層ミハエルを愛して止まない状況をネイトに与えてしまった

ひっそりと静まり返った時刻の到着であったため表門の扉はもちろん閉ざされている
当然とばかりにネイトは通用口のある裏門へ回る
馬小屋は裏門に近い場所にあるためどっちみちこの場所へ来なくてはならない
ウエディを馬小屋に収めて少しばかりの食べ物を与えてその顔を撫でてやると 嬉しそうにすり寄せてくる
裏門から螺旋階段をあがるのだが そうなると部屋とは反対側の西塔へでるため塔と塔を繋ぐ橋をひたすら渡って
東の方面に歩かなければならない

ネイトの部屋は東塔の中程の踊り場を少し下がったところにある
初めて与えられたこの部屋は幼いネイトにとってすぐにトレジャールームとなった
高い位置から下に大きく延びているこの窓から見える昇る太陽や差し込む朝陽 
夜ベッドの枕の位置から十分に眺められる満天の星空は何にも代え難いものだった
夜明けまで好きな書物を読みあさったり 世にも奇妙な発明を心に描いたり いろいろな時間をここで過ごした
しかし愛着のあるこの場所ももうすぐ手放さなければならない時がやってくる
それは同時にミハエルとの別れでもあるのだ

部屋への階段を静かに下りて行くと その先になにやら黒い塊を見つける
ネイトは一瞬心臓が止まる程に驚き 恐る恐る手元のランプを持つ腕を少し先に延ばしてみる
目を凝らしてよく見ると ガウンを羽織ったミハエルが階段で居眠りしているではないか
傍らには天球儀が置かれている
ネイトは驚いてランプを落としそうになった

「王子!こんな所で何をしているのですか!!風邪をひきます さあ起きて下さい!」
静まり返った塔の階段 警護の者に気付かれないように声をころしてミハエルを揺り起こす
ネイトの声に目を開けるが 少し寝ぼけているのかネイトに抱きつくように腰に両腕を回してくる
「王子寝ぼけている場合ではありません さあ起きて!寝るならご自分のお部屋にお戻り下さい」
切羽詰まったネイトの声でようやく目が覚めたミハエルは少し機嫌の悪い声でネイトを見やる

「ニア 遅い 寝てしまったじゃないか」
「何言ってるんですか?王子が早すぎます 朝方だと言った筈ですよ」
そんなネイトの言葉に大きく欠伸で返す
「僕がそんな朝早く起きれる訳がないだろ?ここで待っていればニアが帰ってくるのが分かる 
途中で寝てたってニアが起こしてくれる筈だ
僕にとっては一石二鳥じゃないか」 そう言ってミハエルはクククと笑う
まったく可愛らしいお方だ ミハエルの後先見ないこの行動も彼の魅力のひとつなのだとネイトは思う

「王子 でも朝までにはまだ時間がたっぷりあります 
一度お部屋に戻られてから使いの者に起こしてもらうのはいかがですか?そうして下さい」
「わざわざ戻るのは面倒だ いいじゃないか 僕はもう目が覚めた 今すぐ塔に登ろう 
朝まで他の星の観察でもすればいいじゃないか
ニアは眠いのか?寝たければ寝てるがいいさ 僕が膝枕をしてやろうか」
そう言って笑うミハエルにネイトは少し頬が赤くなった様な気がした
「いいえ私は大丈夫ですよ 王子の頼みとあれば仕方がありませんね では荷物を置いてきますので少しお待ち願えますか?」

部屋への踊場で一旦荷物をおろし 扉の横のランプ台に明かりを点してから部屋の中に入る
やがてゆらゆらとした仄かな明かりが部屋の入り口から溢れてくる
再び部屋から出て荷物を運び入れようとしていると ミハエルも一緒についてくる
部屋の中を覗き込みながら「へえ」と感心したように言う
「天才の部屋の中はまるで書物の物置の様だな これが全部ニアの頭の中に詰まっているのか?」
ミハエルは嫌味ともとれる発言をするがネイトはそれを嬉しそうに受け入れる
「王子 もうそれ以上は入らないで下さい 誰に見られているかわかりません」
「こんな時間に誰もいないさ ところでどれがニアの発明なんだ?少しだけでもいいから見せてくれよ」
そう言ってずいずいと部屋の中に入ってくる
部屋の中程まで入って辺りをキョロキョロと物珍しそうに見回す
「発明品はここでなくてもみれましたよ王子」
そう言ってネイトはミハエルが持ってきていた天球儀を指差す
「これですよ これが発明品です」

「これが?なんの変哲も無い只の天球儀じゃないか」
机の上の天球儀を持ち上げ 片方の手でそれをくるくると回し始める
「只の天球儀ではございません タイムマシンです」
「たいむましん?それはどういうものなんだ?」
初めて聞く言葉にミハエルはどう捉えていいのか分からない様子で聞き返す

「空間を移動する転送装置です 現在と未来・過去とを接続して時間旅行をする事が出来る装置です」
「…何を言っているのかまるで分からないな ニア 時間を旅行するというのがそもそも理解できない」
「はい 普通は理解出来ません 時間を旅行するという事ですが たとえば今私がいるこの時間のこの場所 
500年先も今と同じ筈がありません それに500年も同じ人間が生き続けられる筈がありませんから
ですがこのタイムマシンというものを使えばあっという間に500年先の未来へ行けるという事です」
「………」
「時間がこのように真直の直線だとしますよ」
そう言って長い紐を机の上に置き端と端を掴んで真直ぐにのばす

「いいですか 今私達はこの時間に存在しているとしましょう」 紐の一番左端を指差す
「この端から端までの年月を10年と考えたとします 一日は24時間 1年で8760時間 
10年で87600時間かかります」 10年後を紐の一番右側に指定してそれを指差しながら説明する
「でも 一瞬にして10年後に行けます この装置はそういう装置なんです」
「ますます意味が分からない」
ネイトは紐の端と端を手にもって両端をミハエルの目の前で合わせてみせる
「つまりこういう事です このように今と10年先を同じ時空の上に合わせてしまうんです」
ミハエルはネイトの満足そうな顔を暫し眺め 複雑な面持ちで腕組みをする
「時空……?か……わかった いやわからない とにかく凄い発明だと言う事はわかったよ それで成功したのか?」

ネイトは大きな瞳でミハエルを見る
「いえ ついこの間試作として出来上がったばかりですので残念ながらまだそれはわかりません 
ましてや人間で試す事は出来ません 保証がありません 移動中にもの凄いエネルギーと重力に耐えねばなりません 
身体が燃えるか凍るか…… いずれにしてもこればかりは実験不可能です 人間以外の物質で試していますが結果はまだわかりません」
「試したのか?」
「はい あなたに天球儀をお渡ししたその日の朝 二ヶ月後のこの部屋へ送られるように私の手帳を転送してみました」
ひょうひょうと言ってのけるネイト
「二ヶ月後だって?」
「はい 一分後や一日後などの短い設定は無理でした
二ヶ月後のこの部屋のクローゼットの中 私の手帳が送られて来たのならとりあえず成功という事でしょうか」
「手帳はニアの大事なものじゃないか もし失敗して戻って来なかったらどうするつもりなんだ?」
「はい残念です そのまま失敗です だから試してみたんですよ 戻って来たら万々歳ではありませんか
どうですか?まったく実用性に欠けるただの自己満足でしょう?」
ネイトはミハエルに向き直りあどけない笑顔を見せる

「こういう話をしているニアはなんだか子供のように生き生きしている いつものお前とは大違いだ」
「知識が人より優れていると周りが思っているだけで他にはなんの取り柄もありません 
こうやって好きな事をしている時が幸せです」

ミハエルに向かって小さく微笑み「さあ行きましょう」と言いながら机の上にある観測用の小物を上着のポケットに押し込む

ミハエルはそう言うネイトの仕草を暫し眺めながら傍らに寄り添い優しくその髪を梳く
「!……」

そして壊れる物を扱うようにそっと静かにネイトを抱き寄せる

「ニア……」

「……ぁ」
ネイトの柔らかい髪にキスを落とす

「ニア」 

ネイトを抱きしめる腕に力がこもる










続く…






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