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第五章

2009.04.29  *Edit 

ミハエルは真鍮で出来ている天球儀をくるくると回しながら 黒板に数式を書きだしているネイトの指の動きを眺めている

「ニア それは何だ?」
「はい フィボナッチ数列の一般項を書き出しております」
「それは分かってるが その横に描いてあるのは蛙か?」
「………いえ これは兎です……」
ネイトは自分の描いた図を見てすこし赤くなる
「うん僕もそうじゃないかと思っていた フィボナッチの数学的解法はたしか兎の出生率に関したものを表している筈だからな」
そう言ってニヤニヤと笑っている
「………お人が悪い 私が絵は得意ではないことは小さい頃からご存知でしょ……」
ネイトは少し口を尖らせ黒板を見つめたまま ミハエルに背中を向けている
「ククク 悪かったよ ところでニア お前がこのあいだ言っていた実験とやらの成果はどうなっているんだ?」
「もう少しお待ち下さい まだお見せする段階ではございません」
そう言ってミハエルを振り向く
「いえ 完成する保証はありませんと始めに申し上げておいた方がいいかもしれませんね」
「そんなに難しい発明なのか?」
「難しいというよりもまったく実用的ではありません はっきり言って無駄な知識の塊と言っても過言では無いですね 残念ながら」
そう言い放ち手帳を取り出しながら「空想劇は活字のみで終わらせるのが一番夢があっていいかもしれません」と付け加える 

「ふ~ん 僕ならたとえば本なんか読まなくても勝手に喋って教えてくれる機械とか 甘いお菓子をいつでも豊富に貯蔵できる箱とか
願いを書けば全部その通りになる手帳とかそんな便利なものがあったらいいと思うね まあ今のは言うまでもなく全部僕の都合だけど」
相変わらずの楽天ぶりを発揮してケラケラ笑って冗談を飛ばしているミハエルに便乗するようにネイトは言葉を続ける

「王子 あ 授業の時は否応なく王子と呼ばせていただきます 先程のご意見ですが まことに素晴らしい発想力ですよ
感心しました 発明とはすべて自己満足の世界から生まれます 決して万人には理解し難く且つ受け入れられない状況にあるもの程価値があると思いますよ」

「ニアはそういうものを発明しているのか?だったら十分価値のあるものなんだな
僕の授業なんかに時間を取らなくて良い 早く完成させてくれ」
そう言って大きく溜息をつき 暇を持て余すかのように天球儀を回す手を止める事をしないミハエル

そんなミハエルの態度を見かねて傍らに歩み寄る
「王子 なにか悩みでもあるのですか?元気がありません
そういえば先日森へ行かれたときに私の知り得るものをいろいろ教えて欲しいと言っておりましたが
今そうであるのでしたらこの厄介な数式など後回しにしてそちらの方を伝授いたしますよ」 ネイトは優しい言葉をかける

「知りたいこと… ん~ そうだな 愛とはどんな気持ちになるのかという事が知りたい」
ミハエルは頬杖をつきながら実態の掴めない何かに視線を這わせている
思いがけないミハエルの質問にネイトは目を丸くして驚いた
「王子 あなたは本当にロマンティストなのですね 申し訳ありませんがそれはどの数式よりも難解です 私にはよくわかりません」
密かに思いを抱いている心の奥底を覗かれた様な気がして ネイトはミハエルの側を離れようとした時……
ミハエルに腕を掴まれ その動作は阻止された

「な……んでしょうか」

ネイトを掴む腕にほんの少し力が籠る
「僕は何度も女を抱いたが何も感じなかった それらの女達には全然興味が持てなくて気持ちが高揚しなかった
性的欲求を消化しただけの行為は空虚な気持ちが残っただけだ 愛してないからだ
でも愛しているってどんな気持ちなのかよくわからない ドキドキしたり身体が熱くなるとかそう言う事だろ?
でもそれは女に対してだけのものなのか?」
ネイトの視線を捉えながらミハエルは静かに熱っぽく語る 

「それは……人によりけりでしょう 感じ方も違えば受け取り方も違います 人の好みも十人十色です
たまたまその女性達が王子の好みではなかったのでしょうね」
ネイトはミハエルの体温を腕に感じながらも目線を少しずつ逸らしていく

「僕はおかしいのか? 気持ちがそわそわして一日中落ち着かないんだ……」
そう言ってミハエルはネイトの腕をさらに自分に引き寄せて手のひらに口づけする

ネイトは身体の芯から一気に熱が吹き出る様な感覚を覚える

「ニアといると楽しくてドキドキする 夜に会いたくなったり話がしたくなったりする 抱きしめたり口づけしたくなる……
これは愛してるということか?僕は男だけどそういうのもあると思うか?」

「………森に出かけた興奮が覚めてないだけですよ そのうち落ち着きます」
ネイトはミハエルの唇から静かに手のひらを外す

「昔から僕は時々不思議な感覚に胸が苦しくなる事があって それが何だかよくわからなかった
でもニアが祝福のキスをしてくれた時あの頃と同じ感覚が甦った
………………心臓が痛くなる様な感じだ……」

ネイトは目眩を覚える
今すぐにでもその気持ちを受け止めて抱きしめたいとネイトは思った
しかしそれは決して許されない事なのだ
行き場の無い思いに身を焦して衝動的に欲望を掃き出したとしても ミハエルは自分の前から去ってしまう現実を変える事は出来ない
これ以上辛い想いをするくらいならこの世から消えてしまった方がよっぽど楽かもしれない

「ニア?」
「戯言はやめましょう王子 今日の勉強はもう終わりです」
「戯言じゃない 僕は…」
「メロとニアは良き友達ですよ これからもずっとそうです」
ミハエルの言葉を遮るように言葉を放つ

「ご成婚のお祝いの宴で王子は隣国からお招きいただいているそうですね ですので私は明日から十日間お休みをいただきました
暫くはこの複雑な数式から離れられます 丁度良い機会です 離れれば少しは落ち着きますよ ただの戯言だと王子も気付く筈です」
「戻ってくるんだろ?」
先程の自分の科白を少し後悔した様な仕草でネイトに訪ねる
「もちろんですよただのお休みです 王子が城を離れる日の朝まで私は此処にいるつもりです 出て行けと言われてもそれまでは出て行きませんからね
覚悟しておいて下さいね 王子」
ネイトは精一杯の憎まれ口を叩いたつもりだったがミハエルには余計に悲しい言葉だった

「最後みたいに言うなよ ずっと友達なんだろ? 辛くなるからそんなふうに言うな」
そう言ってミハエルはネイトから顔を背け部屋を出て行こうと扉の方へ歩み寄る

「王子 天球儀をお部屋にお持ちになりますか? 随分気に入っていらっしゃるご様子でしたから」
ネイトは天球儀をミハエルに渡す

「私が帰って来た日の夜の天空が澄み渡っていたならば 朝方一緒に星を眺めましょう」
「朝方?アフロディテか?」
「正解です 明けの明星です 星はお好きなようですね 王子」
「女よりはよっぽど興味がある」
そう言ってミハエルはいつもの笑いをネイトに見せる

「東塔のてっぺんでお待ちしておりますよ」

そう言ってミハエルよりも先にネイトはその部屋を後にした








続く…





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